เข้าสู่ระบบ「どうせ黒幕は周りの奴らだ。接触すれば、証拠隠滅されるのは確実だぞ」
ティエリーが笑いながら答える。 他人事だと思って、楽しんでいるようだ。 ルシアンはティエリーを軽くにらみつけた。 「王子は放っておく。現場を確かめた方が早いだろう」 現場というのは、ワイール領のことだ。 ルシアンは、管轄する諜報部の部下を、すでにワイール領へ潜入させていた。 四日後、皇太子率いる帝国の使節団は帰国することになるが、ルシアンは密かに別行動に入り、ワイール領へ向かう予定だった。 「帰国の前夜には、晩餐会と夜会があるだろう。そこで、ノワジエール侯爵とワイール領主の動向を探っておく」 「夜会か……聖樹も参加するのだろうな?」 「おそらく」 ルシアンが頷くと、ティエリーはグラスを傾けた。 紅い瞳が細められ、探るような顔で口端を上げる。 「あの偽装薬だが、多めに持ってきたんだろう?「王太子殿下が列席されるご予定でしたけど……本音を申し上げれば、聖樹様がお越し下さり、本当にありがたいと思っているのです」 「そうなのですか?」 「ええ。王太子殿下の列席は名誉になりますが、女神様の祝福をいただく方が、私達にとってずっと喜ばしいことですわ」 セレナ嬢は笑顔を店ながら、そっとお腹に手を当てる。 隣に立つ新郎のフィリップを見つめて、優しく微笑んだ。 「領主一族は、国境を守り、領民を守ることが何を置いても優先されます。代々、この地を守ってきた誇りもございます。ですから、一族を増やすこと、その血を絶えさせぬ事が重要なのです」 「領民にとっても、アレシオン伯爵の一族は多ければ多いほど喜ばれます。辺境伯と呼ばれるとおり、領主一族はみな剣を取り、騎士となりますから」 フィリップも、穏やかな眼差しでセレナ嬢を見つめる。 (えっと……子どもがたくさんほしいってことだよね?) エマがちらっとナタリナに視線を向けると、にっこりと頷かれる。 王太子から聞いたときは半信半疑だったが、「聖樹の祝福を得ると、子宝に恵まれる」という言い伝えを、みな本気で信じているのだ。 エマも、いい加減な気持ちで儀式に臨むわけではないので、その効果があるのなら喜ばしいことだと思う。 「お二人の未来に、豊かな実りが訪れますように」 エマは祝福の一節を、あらためて二人に言葉を贈る。 (そっか……実りって、そういう意味もあるんだ) こうして公務に出ることで、いろんなことが見えてくる。 新郎新婦との挨拶が終わると、アレシオン伯爵が杯を手にやってきた。 「エマヌエーレ様! 我が娘のために、遠方よりご足労いただき、感謝いたしますぞ!」 「とんでもありません。お二人の新しい門出に、微力ながらお手伝いができたこと、嬉しく思います」 「エマヌエーレ様は、謙虚な御方だ!」 ガハハッと大声で笑う伯爵に、エマは何と答えていいか迷って、微笑み返した。 葡萄酒を水のように飲んでいるが、酔っている様子はない。だ
エマの手にあるその冠は、今まさに聖なる光が宿ったかのように輝いて見えた。 『聖なる女神イーリスよ。 今日、共に歩む道を選び、互いに結ばれるお二人に、 永き加護と揺るがぬ愛をお与えください』 エマの澄みわたる声が、神殿の高い天井に吸いこまれてゆく。 新郎新婦の瞳には、感激の涙が浮かんでいた。 『これからの未来に、豊かな実りが訪れますように。 その歩みが光に満ち、互いの心を温かく照らし続けますよう。 聖樹エマヌエーレ・イーリスの名において、ここに女神の祝福を授けます。』 祝詞を終えたエマがそっと目を開くと、新郎新婦は揃って女神の冠を受け取り、頭を下げた。 神殿にふわりと風が舞い、まるで本当に女神が微笑み返したようだった。 役目を終えたエマは静かに後方へ退き、再び控える。 まるで、そこに女神が佇んでいるような厳かな空気が、その場を包む。 アレシオン伯爵もユリックも、他の参列者も、しばし言葉を失って見守り続けた。 こうして、挙式はつつがなく、美しく幕を下ろした。 挙式を終えた新郎新婦は、揃って神殿の扉をくぐり、アレシオン城へと続く石畳の道を歩み出した。 晴れ渡る空の下、町の人々が列をなし、花びらを撒きながらふたりを祝福する。 セレナ嬢は緊張の解けた柔らかな笑みを浮かべ、フィリップも誇らしげにその手をとって進む。その姿はまるで絵画の一幕のようで、道行く者すべてが幸せの光に包まれていくようだった。 エマは神殿の階段の上から、幸せいっぱいに歩いていく背中を、静かに見送った。 手を取り合う姿は温かく、眩しくて、羨ましい。 (すごく幸せそう……僕もいつか、ルシアン様とあんなふうに結ばれるのかな) エマは、ルシアンの約束を信じている。 でも、本当にルシアンと結婚できるのか。あの二人のように、周りから祝福されるのか、エマには分からない。 (ルシアン様は帝国の貴族で、皇太子殿下の側近だから……
セレナ嬢の結婚式の日は、あっという間にやってきた。 女神に祝福されたような晴天で、城内が浮き足立っているように感じる。 エマは花嫁でもないのに、早朝から準備に追われた。城内で清めの沐浴を済ませ、儀式前の食事として肉類などを避けた禊の食を頂く。 その後は、城内の礼拝室を借りて女神に祈りを捧げ、儀式で唱える祝詞を小声で復習した。 それが終わると、聖花女たちと共に、神殿へ向かう。 聖樹用の控え室で、着替えのために儀式用の法衣を広げた。 「エマ様のお召し物が間に合って良かったですわ~」 針仕事が得意なスースが、一日かけてエマの法衣に手を加えたのだ。 王宮に移ってからは使うことのなかった儀式用の法衣は、純白の布地に、女神イーリスの象徴であるリンデンの葉の冠と、聖樹の象徴である大樹をモチーフにした意匠が、見事に刺繍されている。神殿時代はそれを着ていたが、スースが「エマ様のお召し物ですから、もっと華やかな方がいいですわ!」と言い出して、急きょ刺繍糸と金糸細工の飾り玉を取り寄せて、装飾にかかったのだ。 「スース。神殿のときもそれを着てたんだし、そのままでいいよ?」 「いけませんわ! エマ様は女神の愛し子! 光り輝く、女神イーリスに相応しい装いを!」 「いや、僕は祝福を授けるだけで……」 「エマ様、スースの好きにさせましょう」 説得しようとしたけど、ナタリナに止められた。 シーシも首を振って、ナタリナに味方する。 「スースは、エマ様のお召し物にこだわりがありますから~」 二人にそう言われて、エマもスースに任せることにした。 そうして仕上がったのが、白銀の糸をふんだんに使い、金と淡い色で、花や鳥、水や風の恵みを美しく描いた、聖樹らしい儀礼用の法衣だ。 光に当てれば淡く反射して、神秘的な雰囲気を醸し出す。 「わぁっ! すごいよ、スース!」 「スゥは頑張りましたわ!」 「シィもお手伝いしましたよ! エマ様が聖樹として祭壇に立つのですから!」 「女神の使いが降臨
聖樹用の法衣に身を包み、一歩前に進み出る。襟元や袖口、裾のさりげない部分に、金と銀の糸で刺繍し、小さな宝石で飾りを施した上品な法衣は、先日新調したものだった。 エマはやや緊張しながらも、胸の前で両手を交差させ、軽く頭を下げる。 「お初にお目にかかります。王太子殿下の命により、アレシオン伯爵令嬢の結婚式にて、女神の祝福の儀を執り行わせていただきます、聖樹エマヌエーレ・イーリスと申します」 「おお! そなたが、我が国の宝、聖樹エマヌエーレ様か!」 「は、はいっ」 伯爵の大声に、エマは少したじろいだ。 そんなエマの態度を気にすることもなく、伯爵は豪快に笑い声を上げる。 「噂に違わぬ、可憐な花のようだ! なあ、セレナ!」 アレシオン伯爵が振り返った先には、若い女性騎士が控えていた。 騎士団の制服のようだが、他とは少し違っている。深い紺色の上着は、質の良い布地で仕立てられ、乗馬ズボンと磨かれた長靴は彼女の体によく馴染んでいた。 赤みがかった茶色の髪を高く結い上げた彼女は、大きな黒い瞳で伯爵を見上げると、苦笑を浮かべる。 「父上。そのように大声を出しては、エマヌエーレ様が驚きます。どうか落ちついて下さい」 「む。そんなに大声は出しておらんぞ」 伯爵は不満そうだが、娘に言われて大人しく口をつぐむ。 (この方が、結婚式を挙げる伯爵令嬢?) 王都の貴族令嬢と同じような出で立ちを想像していたので、驚いた。 エマやユリックを出迎えるのに、ドレスではなく騎士の格好を選んだのも、国境を守る辺境伯の一族としての意思が見えるようだ。 令嬢は右手を胸の前におき、エマに向かって深く頭を垂れる。 「聖樹エマヌエーレ様。わたくしは、アレシオン伯爵の娘、セレナ・アレシオンにございます。このたびの挙式に、女神の祝福を賜れますこと、心よりの栄誉に存じます」 セレナ嬢は挨拶を済ませると、大きな目をキラキラと輝かせてエマを見つめた。 エマもにこりと微笑み、セレナ嬢に挨拶を返す。 「
「半月もこのような場所に閉じ込められては、お体に障ります。すぐに側妃様へ取り計らいましょう」 「ならば、外に出られるよう手配しろ! 兄上には見つからないようにな!」 「かしこまりました、ただちに」 レオナールは、ニヤリと笑みを浮かべた。 「そうだ……オレはもう十分に反省している。あの平民を野放しにしたのが、間違いだったのだ」 ドレイクは恭しく頭を下げつつ、毒を含んだ提案を加える。 「レオナール様。王都では、王太子に見つかる可能性がございます。ひとまず、ワイール領へ向かわれてはいかがでしょう?」 「ワイール領に?」 「ええ、それがようございます!」 侍女長が声を弾ませる。 息子の提案に満足しているようで、何度も大きく頷いた。 「あそこは、レオナール様のご領地です。馬車で三日ほどかかりますし、王太子といえど、そう簡単に干渉はできません」 「ああ、そうであったな」 レオナールはドレイクの提案を鵜呑みにして、鷹揚に頷く。 ドレイクはさらに続けた。 「あそこは貴族たちの保養地です。懇意にしておられる帝国貴族との密会にも最適でしょう。そろそろ、あの平民の売り先もお考えになる頃かと」 「おお。商談か」 「はい。躾はこれからゆっくり行えばよいのです。聖樹を欲しがる貴族に高値で売りつけられるよう、万全を整えましょう」 醜悪な笑みを浮かべる従者に、レオナールも満足気に頷いた。 + + + エマは予定通り、王宮を出発して五日目の夕方に、アレシオン伯爵領の城に到着した。 国境沿いの領地らしく、高い城壁に囲まれている。大きな門を通って中に入ると、すぐ城下町が広がっていた。 奥に見える石造りの城は大きく、非常時には城下町に住む領民を収容できるだけの広さがあるようだ。 出迎えのためか、アレシオンの騎士が馬に乗って駆けてくる。エマたちの前を走る馬車に声を掛け、ユリックに挨拶しているようだ。
「……ッ」 ハッと目を覚ますと、ベッドで眠っていた。 視線を周りに向け、ここが客間の寝室だと気付く。 (……夢、か) ルシアンは深く息を吐き出した。 あの夜のエマを夢で見るのは、何度目だろうか。 (本当は、繋がりたくてたまらなかった……その未練だな) あの時は、エマの熱を静めることが最優先だったため、理性を失うわけにはいかなかった。 それに、エマの立場を考えれば、最後の一線を越えずに済んで良かったのだ。 そんなふうに自分を慰め、遠く離れたエマを想った。 「エマ……あと少しだけ、待っていてください」 愛しいエマの姿を思い浮かべて、ルシアンは拳を握りしめた。+ + + エマ達がアレシオン伯爵領へ出立してから数日後。 謹慎中のレオナールは、ランダリエ王宮の自室で不満を抱えていた。 王太子からは、書類仕事をするように言われていたが、レオナールはそれらを補佐官へ押しつけ、自分は鬱憤を吐き出すことに躍起になっていた。 近衛騎士団の第二隊、王太子の近衛兵が見張りに立っているため、自室の外へは一歩も出ることを許されない。レオナールは、苛立ちを押し殺すこともできず、室内をうろついていた。 「どうして、オレが謹慎を受けねばならんのだ!」 怒声とともに、手近な花瓶が床へ叩きつけられる。 白磁が砕け散る音が、静まり返った部屋に響いた。 「すべて、あの忌々しい銀髪の野郎のせいだ! 覚えていろよ、必ず後悔させてやる!」 レオナールの世話は、侍女長と、その息子であり従者のドレイクだけが許されている。 「まあ、レオナール様。お怪我をしては大変ですっ」 侍女長は床に膝をつき、破片を拾い集めた。 その横で、ドレイクがレオナールを宥める。 「お怒りはごもっともでございます、レオナール様。あの平民は、厚かましくも王太子殿下に取り入り、あの貴族を焚きつけて、レオナール様を陥れ